トーチカ~神楽シーン⑤中編

アメブロで弾かれましたので

ここに記しますね。

 

要の話、なんですけどね。

 

 

今日もお話です。

トーチカ~神楽シーン④
どんでん返し編のその後の
神楽と二花のお話です。

トーチカ~神楽シーン⑤前編
二花の妹、三実の妊娠発覚
そして過去の辛い告白がありました。
わたしは三実はしあわせになって欲しかったから、とても嬉しい。


このトーチカ~神楽シーン⑤でも
瑠璃とチカと会話した事が
神楽側の心情として綴られます。

この回で瑠璃とチカが出てきます。


トーチカ~瑠璃シーン④後編2
からの時期的な続きの話です。


瑠璃シーン④は甘い夢のようなロマンティックに。
(⑤もだねえ、ハーレクイーンロマンス的甘々。)

そして、神楽シーン⑤は現実的にロマンティックに。

厳しい過去もありつつの
アホな過ちもありつつの
現実的な生活に根差した
男女の物語。

普通の男女なそれだけでなく
グロさと滑稽さが満載の
でも当人たちは大真面目なエロ。
それをする事の、癒やしの目的もありの。




トーチカ神楽シーン①
東三河に住む、未来を知っている少女
神楽の眼線


トーチカ~瑠璃シーン①
神奈川に住む、モデルの美少女
瑠璃の眼線

交互に同時期を書いていきます。

どちらにも童顔の二花(つぐはる)が絡んできます。

それ以前の物語はこちら


来る潮帰る波
神楽の母が亡くなったことを、その兄(神楽の父になった人)が回顧する話

実になる花~追伸
モデル瑠璃の母、女優実花と、父、アーティスト椎也の物語


神楽シーン④では
来る潮帰る波が絡んでました。
この流れが神楽シーン⑤に続いてきました。
もう、この先の⑤では無いですけどね。



神楽シーン⑤は
前・中・後編です。
後編終わり前まで書きました。
今の段階。


⑤テーマとしての曲“ Do Ya Think I’m Sexy? ”
相手がセクシーと思うなら
とう出るのか?

そして、“ Killing Me Softly With His song ”
誰の歌に殺してと頼むのか?

“カブトムシ”
女の子が相手を愛おしく想うその曲は、いつ流れるのか?


もー何かと問題児
神楽はどうなるでしょうか?




トーチカ~神楽シーン⑤中編



元旦は三実が振り袖を着させてくれた。
黄色地に、華やかな牡丹が描かれている。

「前よりも雰囲気がしっとりしとるねえ、よく似合うわ!」

三実は神楽を見上げて、満足そうに微笑んだ。
見下ろす三実の腹の、膨らみが目立ってきた。
神楽は、それが嬉しかった。

「ママ、着付け教えてね。」

「うん。神楽ちゃんが嫁いでも、ひとりで着られるようにね。」

「嫁ぐってゆーか、二花はあたしの苗字を名乗りたいみたいだわ。」

三実は、成程と、頷いた。

「判るわ、ソレ。あたしは一回、苗字変えとるから。」

三実は結婚した時の、相手の苗字を、そのまま名乗っている。

「苦しかったあの家の事、無かった事なんて、出来ないのは判っとるけど。」

それでも、心が安らぐならば、出来る事を自分にしてあげたい。

「まあ、何だかんだですごくお似合いよね、二花と神楽ちゃん。」

「あたしが子ども過ぎて、並んでも兄妹だら?」

三実は、神楽のその言葉におかしそうに笑った。

「今の神楽ちゃんは、そんな子どもじゃないじゃんね!随分、女になったわ!

 細いままだけど、身体つきが柔らかく、顔もお姉さんだもん。」

裸に近い状態の神楽を見たから。
三実は、余計にそう感じた。
それでも、その娘はまだ、身体を愛されていないのか。
不思議だった。
愛する事、愛される事。
その悦びは精神的に人を円熟させる。
だから、自分も。
満たされ、穏やかでいられるようになったから、まさかの妊娠だったのかもしれない。

「どう見える?並んどると。」

神楽は少し恥ずかしそうに聞いてきた。
三実は微笑んだ。

「ちょっとあれ?って思うけど、恋人同士に見えるよ。」

「あれ?て?」

「神楽ちゃんが、あれ?この娘、幾つかな?て、見た方が微妙な判断になるから。

 でも、いいじゃん!どうせ、二花ロリコンだし!」

「そっか。」

微妙な判断ではあるけれども、恋人同士に見えるなら、いい。
神楽はしあわせそうに笑った。
新緑の頃はまだ、そんな風に他人の眼には映らなかったから。

部屋から出て、居間に行った。
父の瞬は娘の振り袖姿を見て、穏やかな眼になった。

「いいね。正月らしくて。前よりも、もっと似合うかもな。神楽、綺麗だよ。」

言葉がそう勝手に出てきて、柄にもなくストレートに褒めていた。
瞬は自分でもびっくりしたが、まあ本音だから、と頷いた。
綺麗になったな、とても。
嬉しいような複雑のような気持ちが混ざっている。

「ありがと、お父さん。」

嬉しそうに穏やかに笑う神楽。
お前がそんなに綺麗になったのは、どうしてだ?
だけど、問えない。

「ふー。」

頭をタオルで拭きつつ、二花がやってきた。
東京で椎也のカウントダウンライヴをしてきて、朝になり新幹線で地元に戻ってきた。
みんなの顔を見て、新年の挨拶をして、そして風呂に入っていたのだ。

椎也のカウントダウンライヴは十六年振りに行われた。
第一子の瑠璃が宿って、そして止めていたのだけれど。
第三子がまだ一歳だけれど、子どもたちも家事育児を手伝ってくれるし、

最初の子育てよりも随分生活が楽で、椎也には一区切りだったのかもしれない。
そのカウントダウンライヴで演奏してきて、二花は気分よく、帰ってきていた。
そして、神楽の振り袖姿を、見止める。

「お、あっ。」

恥ずかしそうにして、口籠った。
関係が無い頃だったら、すぐに可愛いね、と褒められたのに。
いや、ふたりきりなら、すぐに褒めたろう。
なのに、瞬と三実の眼があるから、躊躇してしまった。
そんなに顔を赤らめていたら、おかしく思われるに。
神楽は苦笑して、二花を見ていた。

「あ、綺麗だね、神楽。」

それだけ口に出すのに、物凄く胸がドキドキして、声が掠れてしまった。
ヤバいだろ、こんなの。
二花はタオルで顔を隠すように拭いた。

「ありがと、二花。」

神楽は、にっこり笑う。
自分では気づいていなかったが、迂闊な事に、最近、神楽の二花への呼び方が変わっている事を瞬は気づいていた。
どうも、尻に敷かれている関係だ。
それに気づいていた。

お節料理は、毎年、神楽が作っていた。
今年はそれに、三実が手伝った。
こうして家族がどんどん増えて、今年はまた、ひとり増えるのだから。
ひとりきりだったこの家で、また賑やかな新年を迎えられる。
瞬は、ひとり穏やかに笑って、団欒の様子を眺めていた。

「美味いよねー!流石だわ!神楽ちゃん。」

特製の伊達巻きを食べながら、三実は神楽を褒めた。

「料理上手な嫁を貰える男って、最高だらあ?」

三実は笑って、二花を見やった。

「え?」

二花は焦って、三実を凝視した。
いや、これまでだったら、そうだなって笑って遣り過ごす処でしょ?
三実は、兄のその素の反応に、逆に焦った。
百戦錬磨の癖に、こいつ、意外な処で純情で、難なく遣り過ごすのが下手だな。
なので、それ以上、語れなくなって、微妙な沈黙が場に拡がった。
瞬は、その様子を見て逆に焦っていた。
三実は知っているんだな、ふたりの事を聞いているんだな。
で、実際、どうなんだ?
後で、三実に聞き出そうとしていた。
神楽は振り袖で、締めつけられている胸が苦しくて会話も上の空で、そう食べられない事を実感していた。

「この姿で、初詣で行きたいやあ。」

そう、ぽつりと言った。

「行こうよ!みんなで行こう!」

二花は笑って、そう宣言した。

「売れっ子ピアニストと一緒に人混みに出掛けるのか。」

瞬は、少し微妙そうに、そうぽつりと言った。

「まあ、いいじゃん。兄なんだし、この人。」

三実は瞬の背中に片手を置いた。

「そ、俺、瞬のお兄さん!」

二花は笑って、自分を指差す。

「……俺の息子だし?」

瞬は、そうぽつりと言った。
この場で、今、そう言われるとは思っていなかった二花は驚いて、眼を見開いた。

「お義父さん、一緒に行きましょう。」

冗談的に、そう呼んだ。
面白い関係だ。
瞬は、ふっと笑った。

頼りになる兄であり、頼りない弟的でもあり、長年の悪友でもあり、秘密を共有した仲間でもあり、そして娘の恋人となり、息子となる。
それは何年後なのか。

二花はハンチング帽を目深にかぶり、よくあるようにマスクをした。
三実の体調と腹を考えて、そこまで大袈裟に混み合わないだろう神社を狙って訪れた。
参拝の列に少し並んだ後、順番が来る。
神楽は、隣りで熱心に願い事をしている二花を盗み見ていた。
拝む手、閉じた眼の長い睫毛を眺めていた。
二花は長い時間、願っていた。

参拝後、人混みから抜けようとして、人の波に押された。
咄嗟に二花は神楽の手を握る。
少し離れた処に、瞬と三実の大事無さそうな姿を確認して、二花は指の力をぎゅっと強める。

「何、お願い事しとったの?」

神楽がその手をぎゅっと強く握り返し、二花を見上げた。

「ん?三実が無事に出産できますように、とか。俺の仕事が、もっと繁栄しますように、とか。」

神楽と、ずっとこうして楽しくしあわせでいられますように。
神楽がいつも笑っていられますように。
そして。
耳元でマスク越しに囁く。
その言葉に、神楽は眼を閉じた。
人混みの中で、顔を変える訳にはいかなかった。

「ズルイ。」

「神楽は、すぐ誤魔化すからね。」

そして、また耳元で囁く。

「……だろ?」

神楽の力が入り、ぎゅっと、二花がその手を強く握り返す。

「痛い。」

「ごめん。」

二花は慌てて力を弱めた。

「ズルイ。」

「想像しといて。」

少し力が強まり、そして神楽の手を離し、その眼が、にこっと笑う。
振り袖の神楽の腕を優しく掴んで、瞬と三実の元へ、ゆっくり歩いて行った。
連れられた神楽は、二花の後頭部から逞しい肩を、眺めていた。

二花は、やはり男だ。
女の子になっても、やはり男だ。
そして、多くの男女と関係しているだけあって、駆け引きが巧みだ。
神楽は、それを実感していた。

弄ばれているのは、あたしの方かもしれん。

微かに顔を赤らめながら、神楽は、そう考えていた。

帰ってきてから、二花は神楽のリクエストで、様々な曲をピアノで弾いた。
作っている曲も、乗せられて披露した。
詞を全部つけられてないので、ハミングをしながら。

触れたい もっと
触れたい もう少し

そんな歌も唄った。

“ Do Ya Think I’m Sexy? ”
扇情的なその歌を処々唄いながら、軽快に弾いた。 

神楽、お前はセクシーだから、どうかお願いだから。
もう少し、触れさせて。
いや、もっと深く。

英語の歌詞が判っているのか、どうか。
神楽は笑って拍手をしてくれた。






……………………………………………………………………………




椎也の名古屋ライヴの前夜、いつも通り、二花は泊ってきた。
瞬と三実が寝入った頃を狙って、二花は神楽の部屋に、潜んで入ってきた。
ベッドに寝ている神楽に口づけをして、そのまま身体を跨ぐ。
身体を密着させてくる。
抵抗しない神楽に、二花は身体をつけながら、深い口づけをする。
神楽はその舌の動きに添って、二花の背中に手を廻す。

「ダメ?」

耳元で小声で問い掛ける。

「生理。」

「そうかと思ったけど。」

二花は苦笑して、頷く。
そうでなくとも、神楽は今日も受け入れたかどうか。
そのまま神楽の唇を吸う。
神楽も激しく吸ってくる。
背中に廻した腕の力も、ぎゅうっと強まる。
ここまでは、これまで通り。

神楽の耳たぶを吸った。
びくんと身体が反る。
なので、そのまま耳を舐めつつ、首筋へ唇と舌を移動した。

「んんんんん。」

神楽は小さく声を揚げた。
その、煽情させる高い声。
今日は拒否をしないで受け入れてくれる。
きっと、この間のおまじないの効果が出てきている。
二花は悦びに溢れて、神楽の首筋を舐め廻す。
その二花の首を、チラチラと舌が舐めてくる。
神楽らしい。
鎖骨の辺りを舐めていると、神楽が激しい呼吸と共に、二花の耳を吸ってきた。
やっぱり神楽は大人しく抱かれていないんだな。
積極的な神楽の様に、二花は呼吸がどんどん激しくなる。
神楽の呼吸も、声が出てくるようになる。
なので興奮して、胸に触れようと手を動かしたら、その手を払われた。

「何で?」

二花は神楽を見つめて、小声で問うた。

「何ででも。」

「どうして?」

また手を動かそうとすると、ピシっと手の甲を叩かれた。

「神楽ぁ。」

「調子に乗らんで。」

折角、いい処だったのに。
そんな時、バタンと音が響き、バタバタと廊下を歩いていく音が聞こえてきた。
玄関が開き、車のドアがバタンと閉まる音が聞こえる。
ふたりは顔を見合わせ、身体を離して立ち上がる。
そっとドアを開き、何事かと確かめようとしたら、廊下を歩いてきた瞬とそのまま眼が合った。
瞬は大きく眼を見開き、寄り添って部屋の中から覗いているふたりを確認して、大きく溜め息をつく。

「―保留な。」

そう呆れて言い、髪を掻き上げた。

「三実の腹が硬く張って、産院に聞いたら、来て下さいって。行ってくるから。」

溜め息をついて、二花を強く睨んだ。
そのまま身を翻す。

「行ってらっしゃい、気をつけて。」

ふたりで声を揃えて、瞬を見送った。
車が去っていくと、部屋の電気を点け、ふたりは顔を見合わせた。

「大丈夫かな?」

「うん。」

神楽は軽く頷いた。

「無事に産まれるから……大丈夫だとは思うけど。」

「なら、良かった。」

二花は、ほっと溜め息をついて、そして神楽を見つめた。

「もう、瞬にバレちゃったよ。」

恥ずかしくて、神楽は眼を逸らす。

「ちゃんと言うけどさ、瞬に。でもさ。」

「きゃっ。」

神楽を抱き上げて、ベッドに寝かせた。

「言うのに、何の実証もないと、深みがないっていうか。」

神楽の胸に手を置く。

「やだっ!」

びくんと震えた神楽は、自分の顔を手で覆った。

「何で、やなの?」

そのまま指を動かす。
神楽は身体を震わしている。

「こんなに感じてるじゃん?」

「ダメっ!ダメっ!」

顔を手で覆ったまま、頭を激しく横に振る。

「何でだよ?」

本気で嫌がっている訳ではないと気づいた二花は、そのまま神楽のパジャマの中に、左手を入れてきた。

「ダメっ!いやっ!」

「悦んでんじゃん。」

その膨らみ、硬くなった先端。

「やめてっ!こんなの知らないっ!」

神楽は顔を大きく振った。
二花は右手で、顔を覆っている神楽の腕を掴んだ。
赤くなっているその顔が見える。

「ん?初めてのこの時を観てないから?不安?」

そうか。
二花は神楽が可愛くて、笑った。
神楽のパジャマの上を脱がそうとする。

「ダメっ!いやっ!見ないでっ!」

神楽は可愛く抵抗した。

「見るよ?」

「おっぱい小さいから、見ないでっ!」

神楽が可愛く叫んで、二花はようやく気づいた。

「神楽、そんな事、気にしてたの?」

脱がせてから、その上半身を全て赤く染めた白い肌を、二花はうっとりと見つめた。
神楽はまた、顔を手で覆って、頭を振った。

「見ないで!見ないで!」

瑠璃ちゃんみたく巨乳どころか、とても貧相だから。
いつか、神楽は、ぼそっと呟いた事がある。

「綺麗だよ?こんなに綺麗だよ?」

「いやっ!」

口に含む。
神楽は激しく身を捩った。

「んんんんん!」

「いいよね?神楽。」

許可を貰った、と、二花は受け取った。
そのうち、緊張していた力を弱め、隠していた顔も露わにして、神楽はそのまま、二花の愛撫に身を任せ、喘いでいる。

「神楽、可愛いよ。」

「痛いっ!」

「ごめん。」

痛がるその度に、指の力を弱める。
神楽は愛撫されつつも、二花の首筋を舐めたり、唇が腹に移動した二花の後頭部に、しっかり手が覆う。

「んあっ!んあっ!」

激しくよがっている神楽の全てを知りたかったけれど、今日は上半身だけの愛撫に徹した。
どんどん、激しくなる神楽の声、震え、動き。
二花だけに任せない、積極的な動き。
神楽はやっぱり、何だかんだで攻めたい派なんだろうな。
二花は笑って、背中から神楽の両乳房を揉みほぐした。

「んあーっ!」

神楽は大きく身を捩って叫んだ。
そして後ろ手で、二花を弄んできた。
しばらく、そのままにさせる。

「これがそんなに欲しいのか?今日は、されるんじゃなくて、させるから。」

二花は自分で全部脱ぎきって、神楽の身体を誘導させた。
神楽の頭を押さえて、それをさせた。

「んんっ!」

「いい……神楽。」

悦んで口でしている神楽の頭を押さえつけ、攻める方の悦びを味わっていた。

「美味いか?」

「んんっ!」

「神楽は好きなんだよな?俺のこれが。」

「んっんっ!」

いつもは攻めてくる神楽を征服する快感。

「その顔、好きだよ。もっと攻めたい。」

とろんとした見上げる眼。
この顔の神楽も好きだ。

「神楽の中で、攻め続けたい。」

「んーっ!」

「想像したんだろ?」

「んっんっ。」

「今、とろとろだろ?」

「んあっ!」

腰を突き出して、ぴくぴく震えている。

「可愛いね、神楽。綺麗だよ。」

この女の中を愛する時も、きっともっと激しいだろう。
中に入ったら、それからはもっと、フレキシブルにお互いが攻めて攻められて、変化して愛し合える。
それを想像しながら、二花は神楽の頭を押さえた。
神楽の腰が激しく震えていた。




……………………………………………………………………………



瞬と三実は、午前中に帰ってきた。

「良かった、大丈夫?」

神楽は三実の膨らんだ腹に触れた。

「ありがと。病院着いたら、すぐに柔らかくなったの。でも、様子見て一晩。」

その間、父は心配そうに付き添っていたのか。
神楽はくすっと笑った。

「良かった!」

神楽の屈託無い笑顔に、三実は笑い返した。

「二花は?もう行ったのか?」

「うん、音合わせせんとね。」

神楽は悪びれずに、そう言った。
神楽の作った朝食を三人で食べる。
瞬は、とても気まずそうだった。

「あたしが言うのもヘンだけど。」

神楽は箸を置いて、真面目な顔で父を見た。

「本当は二花が言いたかったんだけど。」

出掛ける時、二花は神楽の頭をぐしゃっと撫でた。

ごめんな。
俺、後で瞬に連絡しとくから。

瞬と三実が帰ってくるのを待っていたが、もう出ないといけない時間なので、

二花は仕方なく、神楽にキスをして、悔しそうにして出て行った。

「お父さん。あたし、二花とつきあっとるの。」

「あいつ、何もしないって言ったのにな。」

娘の告白に、瞬は、ぼそっと言った。
まあ、あたしが襲ったんだけど。
神楽は、その真実は、言えなかった。
言ったらお終い、だから。

「あんなカタチで報告になって、ごめんなさい。」

「よりによってうちで、なんてなあ。二花の気がしれん。」

「だって。他に何処でエッチ出来るの?二花の家しかないよ、他には。」

ストレートな娘の言葉に、瞬は味噌汁を噴き出した。

「神楽……。」

三実が笑ってティッシュを差し出し、瞬は頭を押さえた。

「俺は育て方を間違えたか?」

「お父さん、あたしは産まれる前に全てを観てきたの。二花が男や女とする処、あたしが二花に愛される処、」

話し出した娘の赤裸々なそれを、瞬は手で制した。

「いつか結婚するから、あたしたち。」

「知っとるよ、それは。」

それがもう実際に進んでしまった事に、それを現実的に知ってしまった事に、瞬はショックなのだ。

「また、ちゃんと二花に話を聞く。」

「はい。」

ムスッとした瞬に、神楽ももう何も言わなかった。

出掛ける時に、タイトな白のトップスに赤の膝丈のフレアスカートと紺のタイツ、

その上に紺のダッフルコートを着てきた娘の姿を、瞬は驚いて見つめた。
いつも背中が真っ直ぐで凛としている神楽の姿が、より美しく見えた。

そんな服、持っていたか?
いつの間にか買ってもらったのか?
その紺のダッフルコートは、よく二花が着ていたからお下がりなのは判る。
そして首に着けた金のネックレスが、神楽の元からある気高さを、より際立たせていた。

「ひとりで大丈夫か?」

今日の椎也の名古屋ライヴに、三人で行こうとしていた。
しかし昨夜、三実の腹が張ったので、瞬と三実は残念だが、今回は止めることにしたのだ。

「そうねえ。ひとりで電車乗って出掛けた事って、そう無いけど。まあ、行き先が判るから、大丈夫だわ。」

神楽は笑って答えた。

「俺の番号控えといて、もし、何かあったら。」

娘を心配する瞬に、神楽は気まずそうにバッグからスマートフォンを取り出した。
娘にそれを与えてはいないので、瞬は驚いた。
神楽自身も小さい頃からゲームや携帯電話を全く欲しがらなかったのだし。

「黙っとって、ごめんなさい。これ貰っとって。二花とやり取りしとったの。」

「何だか、なあ。」

瞬は頭を押さえた。

「神楽が現代人になっていく。」

家にノートパソコンが一台あるだけで、電子機器と無縁の娘だと思っていたのに。

「相当な親バカだわ。」

三実が呆れて笑っていた。
三実には笑って送り出され、神楽は内心緊張して最寄りの駅まで歩いていく。
今回のライヴの席、関係者席を三席用意したと二花は笑って言っていた。
三実が身重だし、二花なりに神楽の事を考えて、かもしれない。
まだ三人で、そこに座るなら、安心だっだけど。
一人で、関係者席に?
赤面した。
心細いし。

席が二席空いてしまって申し訳ないと思っていたら、二花から、

二人、突如観に行きたいと言われたから丁度良かったと椎也が、と連絡が入った。
なら、良かったけれども。
緊張する。

だから、やって来た電車に乗り、昨夜の愛撫を身体に想い出していた。
快感。
想像以上の恍惚感。
瑠璃ちゃんが、あんだけ何回も欲しがるのが、判る。
二花が欲しいし、もっと可愛がりたい。
もっと可愛い声を出させたいし、昨夜のような攻める言葉も溜まらない。
ああ、こんな事深く考えとったらいかん。
おかしな顔つきになるわ。

何処からか煙草の匂いがした。
二花の煙草の匂い。
昨夜も神楽の部屋の窓を開けて、満足そうに吸っていたな。
終わった後の煙草の匂い。
それが好きだ。
いずれ、それも無くなるけれど。

煙草の匂い。
自分が着ているダッフルコートからだと気づいた。
匂いが染みついていたのか。
もう、結構前から着ていたダッフルコート。
二花に似合っていて可愛くて、好きだった。
だから、これ欲しい、と言ったら、正月にくれた。
二花の新しいコートを買いに行ったな、ふたりで。
当たり前に値札を見ないで購入する二花に、この人の経済観念は一生変わらないんだろうな、と神楽は考えていた。
かといって、自分の好きなものだけを吟味して買い、気に入って長く使い続け、激しく浪費する人ではないので。
車も古いし、家も地味だし。

二花の不動産収入は凄いよ。
三実は、いつか笑っていた。
父親の財産分与を嫡出子と、財産放棄しなかった非嫡出子、計七人として、その入った遺産の土地活用が、二花は流石だった、と。
企業に借りさせれば毎月、多くの収入がある。
あたしのお小遣い程度の収入とは比べ物にならない、と。

坊っちゃんのようで、ふらふらしとるようで、二花は大物になりつつあるし、あたしは結構いい、人生の選択だったんだ。
笑えてくる。
神楽は、誰だか判らないが、その未来を胎児の時に観させてくれた存在に笑った。
そんな好条件の二花も、多情なのが欠点だけど。

豊橋駅から乗り換えて、名古屋に向かった。
名古屋駅で更に乗り換えるけれど、行き先はもう、これまで何回も父と訪れたから、迷わず行ける。
それでも父は、娘が不安なのだ。
笑えてくる。
赤ん坊が産まれたら、大した親バカ振りが見れるだろうか。

関係者席というのは、一般席とは違う入り口が、ひっそりとある。
二花に言われた通りにそこに赴き、緊張を隠して何気なく入って、案内された。
最後列で、端の席。
後ろだから安心した。
横に誰か座るんだなあ、どんな関係者なのか、緊張するやあ。

しばらくして、ざわっと辺りが騒ぎ出した。
そちらに眼を向けると、早速と歩いてくる長い髪を大きく巻いた艶やかな女性と、手を繋いでエスコートする男性がいた。
これ、冗談じゃなくて、日常的に行われてとるのよね。
何だか笑えてきた。
まさか、ねえ。
ここで。

そのふたりは、神楽を見つけると、じっと凝視してくる。

「こんにちは。」

だから、先に挨拶をした。
はっとして、ふたりは見合っていた。

「そうか。」

チェスターコートを着たチカはニヤニヤしてきた。

「こんにちは。」

瑠璃が艶やかに笑い掛けてきた。
この人、また更に美しさが増したな。

「びっくりしたの。」

いや、こっちがびっくりだよ。
ここで、ふたりに逢うなんて。

「何処かで見たような綺麗な娘がいるなって見惚れてたら、神楽ちゃん、だったの。びっくりした。」

あたし?

「何か、ねえ。綺麗になったねえ。すごく。」

スコート的にチカが先に入ってから瑠璃を引き、そしてトレンチコートを脱いだ瑠璃が神楽の横に座った。
ミニワンピースから伸びた長い脚を、すっと揃えて斜めに伸ばす。
当たり前のように、その奥にいるチカに、コートと青いバッグを渡す。
当たり前のように、チカはそれを受け取る。
このふたりは。
こんな仕草が日常茶飯事なら、そりゃあ、このふたりだけ周りと世界が違うよな。
何かと笑える。

そして、急遽、観たいと言ってきたのは、このふたり、だったんだ。

「いえいえ。こんなチンチクリンに、そんな。」

ふたりが並んでいると、迫力が更に凄い。
身長もそうだけど、気迫と言うのか存在感と言うのか。
瑠璃ちゃんはチカといると、特に輝きが増すんだ。
だから、このふたりは、ふたりでひとつで、そして何倍もの魅力になるのだ。

「もうっ!神楽ちゃんは面白いんだからっ!」

瑠璃は笑って、神楽の肩を少し擦るように触る。
このふわっとした優しい触れ具合、勉強しなくちゃ。
女性的な柔らかさで赤くなってしまう。
細いチェーンのブレスレットが瑠璃の腕で揺れていた。

「やったのか?」

チカはニヤニヤして、神楽にストレートに聞いてきた。
瑠璃がバシッとチカの腕を叩いた。

「まだ、あたしの方は最後までは、やられてない。」

だから、ストレートに答えておく。
軽く声を揚げて笑うチカ。
赤くなる瑠璃。

「可愛がってんのか?」

面白がってるな、チカ。

「可愛がっとるわ。」

だから、キッとチカに睨む。

「綺麗になったな。大したもんだ。」

優しい眼のチカにそう言われて、何故か面白くなる。

「満足させてんだな。だから、お前も満足して綺麗になった。」

「欲求不満だよ。いつも出来ないもん。」

「何ていう会話よ?」

瑠璃を挟んでチカと赤裸々な会話していたので、瑠璃は呆れて笑っていた。

「お前は今夜も満足させてやるからな。」

瑠璃の顎を持ち、チカは瑠璃を見つめた。
瑠璃はその言葉に、とろんとした眼つきになってチカを見上げていた。

「そんな顔しちゃ、ダメだ。」

チカの光る眼に、瑠璃は、はっとして顔を作る。
このふたりは。
そして、瑠璃ちゃんのあの顔。
女のあたしでも、かなりドキリとする。
あんな顔で見られたら、そりゃあ男は溜まらない。
二花も、きっと。

「羨ましいだろ?」

ぼーとしている瑠璃のラピスラズリの指輪に唇をつけて、チカは嘲笑した。
人前でも、こんな風にいちゃいちゃしたいとは、標準的な日本人的には思いませんが。

「もっと、満足しろよ?」

チカに煽られる。
そりゃあ。
もっと、もっと。
もっとお!あーん!もっとお!
もっと、してえ!
連鎖的に二花の可愛い声が脳内に響く。

もっと、してやりたい。
もっと、して欲しい。

「いい顔してるぞ。」

「やらしい。」

何故か。
神楽とチカと絡み合う姿が頭に浮かんだ。
何て事!
そんな、どうにも発展性の無い、昼ドラ以上の混乱した関係。
どうして?
喘いで悦んでいる神楽にチカが攻めてくる。
お前を虜にしてやる、俺が。
ぐぅん。
頭が籠もった鐘のように響いた。
して!して!
あたしは悦んで叫んでいる。

何、これ?

「神楽ちゃん?」

頭を押さえている神楽に、瑠璃が心配して声を掛ける。

はっとして神楽はチカを見た。
嘲笑。
光る緑の眼。

こいつ、もしかして。

「大丈夫か?」

チカの声。

「変な事、想像してないか?」

こいつ!
ヤバい!
予想以上にヤバかった!

「想像?まさかっ!」

アレはあたしの想像じゃない。
チカ、お前は何を考えとる?
何をしようとしとる?
その隣りの綺麗な女性と、しあわせになるんじゃ、ないの?

そういう人生もあるよ。
楽しむんだよ?人生を。
お前、生涯、二花だけじゃ、つまらないだろ?
二花の反応を通して演算して走査すると、意外にも俺とお前と身体の相性が抜群にいい。
試してみたくない?
きっと、いいぞ。
互いに不倫でも、する?
勿論、内緒で。
俺の子どもも産むか?
勿論、内緒で。

頭に響いてくる。

こいつは色情魔だ。
はあっと神楽は息を吐いた。
瑠璃ちゃん、気をつけないと、こいつはすぐに遊べる女を探すぞ?

「どうして、名古屋に?」

神楽は無視して、瑠璃に話しかけた。

「うん。東京オーラスの時期に日本にいなくてね。

カウントダウンも観たけど、でも、やっばりパパのステージもっと観たいから。

勉強になるし。今日、ちょうど午後の撮影が延期になったからね。」

微笑んで、そう答える。

「日本におらん?仕事で海外に?」

「そうね。」

嬉しそうに笑っていた。
その瑠璃の左手を、ぎゅっとチカが握っていた。
そんなに、その女を愛しているのに。
男って基本的に浮気性?

「カウントダウンも観たの?」

「うん。やっぱりお祭り騒ぎだし、いつもとは違う雰囲気の迫力だから、観て良かったよ。」

二花は瑠璃とチカの事を言ってなかった。
来ていたのを知らなかったのか、知っていても大して気持ちが動かなかったのか、それとも言えないのか。

「だから今日も、来れて良かった!」

男なんて基本的に多情で浮気性、かもしれない。
呆れた。
こんなにふたりは仲が良いのに。
何も言わなかった二花にも呆れた。

ライヴが始まった。
関係者席って周りが割りと立たないから、立ちにくいよねえ。
目立ちたくもないし。

席が遠いから見にくいな。
そう思っていると、隣りで瑠璃ちゃんが双眼鏡を渡してくれる。
微笑んでいるから、あたしも微笑んで受け取る。
やっぱり、瑠璃ちゃんは美人で優しくて素敵な娘だ!
あたしの憧れの娘。

二花は自分の世界に入って気持ち良さそうに弾いている。
あたしはそれを見るのが好きだ。
瑠璃ちゃんとチカは、どうなんだろう?
横眼で、ちらっと確認する。
瑠璃ちゃんは真っ直ぐステージを見ている。
何に視点を定めているのか、判らない。
チカも真っ直ぐ見つめている。
何をそんなに怖いくらい見つめているのか。

判る事は、人の気持ちは複雑で、瑠璃ちゃんとチカ、

ふたりがまだ、二花を見つめていたとして、気持ちがそこに一直線とも限らない、という事。
だって、ふたりは手を繋いでいた。
キツく指が絡んでいた。
気持ちが強かった恋愛は、過ぎても簡単に気持ちが解けない。
それを思い知らされた。
こうやって、二花を愛した人たちを見ていて。

また、真っ直ぐステージを見た。
椎也が気持ちを込めて唄っている。
その存在感。
歌と姿とパフォーマンスだけで、会場全てを魅了する、存在感。
家に遊びに行った時、確かに綺麗で素敵な男性だったけれど、普段からこんなに存在感をぐんと出している訳ではない。

人間、自分のステージで、何処まで輝けるか。
大事な場面で、何処まで人を魅了出来るか。

あたしの夢は専業主婦だし、多くの人の前で何か注目を浴びたい訳でもないけれど。
でも、あたしのステージがあるとしたら、二花の前。
二花を可愛がる時、扇情する時、感じている時。
その時に綺麗で格好良く在りたい。
あの人だけ、魅了したい。
そして、身体ごと深く愛されたい。
深く愛したい。

そんな気持ちでステージ全体と二花を、よく観察していた。
くいっと腕を掴まれる。
立っていた瑠璃ちゃんが、美しく笑ってあたしを引っ張っていた。
その隣りで、チカも立って笑ってあたしを見ていた。
三人で立っていればいいか。
最後列だし。
あたしは笑って、泣いて、ステージを見つめた。

あたしは二花だけで、いいの。
この人を、求めてきたの。
だから。
人生の最後まで、たったひとりでいい。

泣きながら、強く想った。

俺もだよ。
この先、たったひとりの人の気持ちが強く、俺に無いとダメだ。
だから、俺は、この綺麗な女を強く愛する。

頭に強く響いてくる。
ウザいな、この男。
気持ちが強すぎで、ウザい。

ああ、似とるのか、あたしと。

さっきの扇情は何だったのか?
別人みたいに。

だから、その姿は今、眼で見ない。
あたしが見とるのは、二花だから。

確かに。
チカ、格好いいなあ、と思ったのは、確かだ。
この男がどんな風に二花を愛するかを、観てきた。
チカの愛し方が、二花はいちばんしあわせそうだった。
だから。
さっきのアレは、いつか何処かで夢想した事、だったかもしれん。
この男なら、とても気持ちよくするんだろうなって。

だけど、本当にそれをしたら泥沼で。
それを心から望んでいる訳でもなくて。
人にはそんな摩訶不思議な夢想がある、という事。
複雑に。

あたしも複雑だった。
そんなに単純な訳でもなかった。
実際に二花と恋愛をして、ようやく判った。
複雑な気持ちが、体内で絡んでいた。

神楽。
お前の遺伝子も、とても興味深い。
だから、味わってみたい。
最高に気持ちよくさせてやる。
一回、どうだ?

また、これか。
複雑な心の動きだ。

たけど。
それは、本気ではない。
その背徳。
だから、惹かれるだけ。

「コンバンワ。今夜も……ようこそ。」

扇情的な喋り方。
椎也はやはり、アーティストだ。
自分の魅力を知っている。
それをいちばんに発揮する場所を知っている。

「熱いですねー
冬なのにね。」

スクリーンに映し出される椎也は大量の汗を掻き、その髪を手で掻き上げる。
二花と同い年の彼は、年を経る事に更にセクシーになったと思う。

「去年ね、ライヴでやったカヴァーがやたらに受けました……なのでー今回も第二弾、なんです。」

会場のどよめき。

「大先生!今年もよろしくお願いしまーす!」

椎也は二花に向いて、お辞儀をした。
二花は照れくさそうに、客席に頭を下げた。
会場からの拍手と歓声。
実際、二花目当ての客も多いと聞く。
神楽も気恥ずかしような、そして、ステージ上の二花がとても遠い存在に思えた。

「二花、一言。」

椎也から、催促され、二花は頭を下げ、マイクに口を近づける。

「こんばんは。えー、ありがとうございます、二花です。夏生まれなのにハルって名前の、二番目の子どもの二花です。」

かわいー!
という歓声に、少年なような照れ笑いを見せて。

「去年は僕の初アルバムも出させてもらい、いろんな事もあり、とても充実した年でした。

 今年もね、おめでたい事があって、妹が初夏?かな?晩春?出産します。」

おめでとー!と複数の歓声が会場に響く。
わざわざライヴで言うくらい、二花にとっては嬉しい事なのだ。
神楽は改めて、それを知った。

「今年もきっと、おめでたい事ばかりで。本当に有り難い事です。ありがとうございます。」

頭を下げて、キーボードに向き直る。

「愛を込めて。」

そう、一言、つけ加える。
椎也はそんな二花を見て、ニヤッと笑ってマイクを唇につける。

「椎也 with 二花で、まずは、“ Do Ya Think I’m Sexy? ”」

印象的なキーボードの旋律。
椎也のセクシーな声。
それに時折、低部をハモる少年のような声。

これ、前に二花が口ずさんでいたし、ピアノで弾いてくれた曲だと、神楽は気づいた。
日頃から練習していたんだな、と判った。

歌詞はよく判らなかったが、そのセクシーさは、よく判った。
椎也も二花も、声だけで、とてもセクシーだ。
こんなステージに立てて、観客を魅了するくらいの男の人。
あたし、本当にこの人の、将来的な妻でいいのかや?と、自信が無くなってきた。
それでも、この人に今、抱きつきたい。

「ありがとー!愛してるよ、みんな。……じゃあね、“カブトムシ”、切なく唄います。」

女の子が愛しい男を想う歌。
男の人がそれを唄うって、何て切ない。
これはあたしの気持ち。
あなたが可愛くて、愛しくて、気持ちが溢れる。

あなたの耳に口をつけて、あたしは言う。
愛してるよ、二花、あたしの可愛い子。
あなたは悦ぶ。
愛してるよ、俺の可愛い神楽。

何て、甘い人。
あたしの胸の鼓動、知っている?
心臓が破れてしまいそう、いつも。
あなたの身体に触れる事が出来ているなんて、未だに信じられない。
愛しすぎて。

曲が終わった後、暗い中、何気に横に視線を動かすと、瑠璃ちゃんが泣きながら、チカの肩に頭を置いていた。
その頭から耳を、視線は前を向いたチカの手が、優しく押さえている。

まるでドラマのワンシーンのような、美しい瞬間。
いけないものを見てしまったような、得したような気分になる。
いちばん後ろで人も通らないし、人に余り見られない席だけど、これが人前で出来るって、

そして様になるって、やっぱり瑠璃ちゃんは特別に綺麗な芸能人。
あたしとは違う世界。

そこに気を取られ過ぎずに、ステージを見ていた。
去年とはまた違う感覚で見る事のできる、椎也のライヴ。
そして、恋人になった愛しい人の姿。

「そうなの。本当は、父とお嫁さんと来る筈だったんだけど、妊娠中でお腹張っちゃって。大丈夫だったんだけど。」

ライヴが終わった後、そのまま神楽と瑠璃は話していた。

「ちょっと待って。そのお嫁さんって?」

あれ?という顔を、瑠璃はした。

「ああ、お父さんのお嫁さんが、二花の妹がなんだけど。」

「うわー!」

瑠璃は口に手を当てて驚いていた。

「二重の親族!」

チカは、そう言った。
そうか。
結構レアなケースか。
神楽は改めて気づいた。

「おめでたいわね。神楽ちゃんも楽しみね?」

「うん!」

退出する人波で、瑠璃に気づいた人たちが、遠くから手を振ってくる。
瑠璃は笑ってそれに応え、手を振る。
チカは神楽を見ていた。

からかってごめん。
まあ、したかったら、いつでも来いよ。
相手してやる。
最高に感じさせてやる。

不思議な人。
そうやって、照れ隠しするんだね。

あたしも。
心の何処かで、きっとそれを望んでいた。
全てを破壊してしまうような、背徳心を煽る快感の予感。
多分、世界でいちばん強い快感。
それを知りたい欲求が、確かにあたしの中にあった。
恐ろしい事に。
だけど、それをしたら、全てが壊れる。
だから。
夢想で抱かれた。
あんな事、本気で想像して感じたんだ。
共鳴したチカは、あたしが隠していた事を、見せつけただけ。

そんな事は、誰でもある。
全てを壊したくないから、現実には、そうしないだけ。
例えば、父も二花も互いに危い夢想を何度もしただろうし。

だからこそ。
父のした事。
三実ちゃんがした事。
誰が責められようか?
あたしは責められない。

だから、ねえ。
本当は、そんな事、出来ない癖に。
チカ。
瑠璃ちゃんを愛しすぎていて。

てゆーか、殺されるから。
神楽。
お前は奇跡の子だよ。
だから、早く、もっと愛されろ。
身体を早く、二花に預けろ。
早くしねえと、まだ、二花見て興奮しちまう。

まあ、貧相なおっぱい見せるのがいちばん恥ずかしかったから、あとは大丈夫なんだけどね。
股開くのは、割りと簡単。
だって。

「とっとと、やれ!」

少し、大きな声。
会場はざわついているから、それぐらいの声は、どうでもないけれど。
隣りの瑠璃ちゃんは、ぽかんとしていた。
会話の繋がりが無いから。

チカは多分。
脳の領域で、多くの人が未発達な部分を、凄まじく活性化して使用している。
シナプス可塑性、長期増強。
だから、もしくは原始的な脳を大脳新皮質で高次に最大限に処理し、

こうして、発声に依らずにして、脳の電気信号だけで会話が出来る。

チカ、面白い奴。
研究してみたい。

「判った。」

だから、言葉で返事をした。
少し変でも、その方が繋がりが判りやすい。
おそらく、瑠璃ちゃんだって、チカの不可思議さに疑問だったろうから。
見合っているあたしたちを見て、瑠璃ちゃんは、ふっと笑う。

「あたしたち、楽屋に挨拶に行くの。神楽ちゃんも、付いてきて?」

お願い、というように。
神楽の腕を軽く掴んで、上手にねだるように。
この甘え方、流石だなあ、瑠璃ちゃんは。

「あ、あたしは!何の関係も無いのに!」

世間には言えない。
あたしたちの事は。
瑠璃は、楽しそうに笑う。

「神楽ちゃんは、二花くんの彼女だもの。大丈夫よ。」

いやいやいや。
こんな子どものチンチクリン。
行ったら、迷惑だ。

「だったら、判断は二花くんに任せるといいわ。」

瑠璃は神楽の腕を掴んで組んで、歩き出した。

「あたしも、別れてから、初めてパパの楽屋に行くの―怖いのよ。だから、付いてきて、神楽ちゃん。」

ねっ?
と、神楽の顔を見つめる。

「お願いします。」

ぽんぽんと、後ろから、チカに頭を触られた。
その指が震えていた。
チカも、怖いんだ。

え?これは利用されているのか、それとも巧い口実で楽屋に連れてかれているのか。
もう、いいや。
どうにでもなれ。



トーチカ~神楽シーン⑤後編に続く


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語ることが多すぎて、語れない。

神楽の理論によるチカの能力の仮定は、後編で理論づけられます。
が、それが正解かどうかは、誰にも判らない。

あくまで神楽の推定。

好きなシーンがあるのですよ、後編で。
その本編は瑠璃シーン⑤で。


ちなみに神楽シーン①、瑠璃シーン①から読み直すと、瑠璃の喋り方が大きく変わっているのが、面白いというかチカの好みへの変化というか。
瑠璃自身も気づいてないけれど。

マイフェアレディ

と言葉が浮かんだので
この話を知らないなあと調べたら
その通りの映画でしたわ!

チカが好きなんだね、きっと。
この映画。

ちかい内に見てみます。

ちなみに二花もつきあっている男と
その持続時間によって
喋り方が変わってます。

チカとの場合
甘々な喋り方→つられてべらんめえ口調

いまは甘々系から普通の口調に。


瑠璃と神楽の語尾につく

~わ

は、勿論は、イントネーションが違います。

噂は聞いてましたが東京の女性は、
普通に女らしく
~だわ
と言うのですよね。
最初カルチャーショックでした。

西の人間は方言で
~わ、なんです。

お読みくださり、真にありがとうございます。