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トーチカ〜瑠璃シーン③前編

今日もお話です。

続きものです。

アメブロで弾かれましたので、

こちらに記しておきます。

 

同時期のふたりの少女、それぞれの眼線の話
を交互で記してます。

 

トーチカ~神楽シーン①
東三河に住む、未来を知る、時をかける少女
神楽側の眼線からの話

 

 

トーチカ~瑠璃シーン①
神奈川に住む、モデルの激しい気性の美少女
瑠璃側の眼線からの話

 

 

それ以前の話は

 

来る潮帰る波
神楽の母が死んだことを、その兄が(神楽の父となった人)回顧するお話です。

 

 

実になる花~追伸
瑠璃の母、女優の実花と、瑠璃の父、ミュージシャン椎也の話。

 

 

今回から、ゆったり書いていこうと思ったのに、

深夜に目覚め、いきなり脳内でエロトークが始まる!

いやあ、心臓があんなにバクバク言うのは初めてでした。
何なの、あんたら。
ホント面白い奴ら。

 

そんなので、勢い良く書きました。

エロトーク出てきますので
卑猥な表現が苦手な方は
読まないで下さいね。

 

 

トーチカ~瑠璃シーン②最終章
そのふたりは、果たしてどのようになったのか。

 

裏と表。
表は裏。
裏は表

 

トーチカ~神楽シーン③で描かれた
瑠璃側に起こった事件は、
神楽側では簡単に流されてますが、
実際はどのような出来事だったのか。

その騒動を次回では記します。

 

そう。
アップできる文章量の問題から、
今回も瑠璃シーン③は前中後編としてます。

誰かさんの妄想話が膨らんだのも原因。

丁寧に大切な流れを書きます。

 

では、お読みくださいませ。

 

 

 

トーチカ~瑠璃シーン③前編

 

撮影の休憩中にショップを見させてくれた。
本来定休日のアウトレットパークでの、クリスマスシーズン広告用のスチール撮影日。
撮影用に数店舗、営業日様に開けてあるのだ。

 

クリスマスというイメージのデザインで、瑠璃は背中に天使の白い羽根を背負い、

ロマンティック且つ女性的なラインが美しく映える白のマーメイドドレスを身に着けている。

これは実際に身に着けると、瑠璃のイメージぴったりで、関係者から拍手喝采であった。

 

今の瑠璃のイメージだと前髪が無い方がいいというチカの意見で前髪を伸ばし中の今は、
そのように真ん中分けでセットして、黒く長い髪は大きく巻いてある。

背中の羽根は付け外しが可能なので、休憩中は外していた。

ジュエリーショップで、瑠璃は嬉しそうにウィンドーショッピングをしている。

 

「かわいー。」

 

シンプルだけど存在感あるピンクゴールドメッキのネックレス。

 

「吉田!吉田さん!ちょっと来てよー。」

 

店の入り口から外を眺めていたチカは振り返り、一瞬、面倒臭そうな眼をしてから、微笑
む。

 

「ハイハイ。」

 

「これ!可愛くない?」

 

店員に出して貰ったネックレスを実際に手に持ち、瑠璃はチカに笑いかける。

 

「ハイハイ、そうですね。」

 

「可愛いでしょ?」

 

「可愛いかどうかは……。」

 

「可愛いったら、可愛いの!」

 

「ハイハイ、可愛いですね。」

 

どうでも良さそうに流して返事をするチカを、瑠璃はジッと見上げる。

 

「何ー?」

 

「いいなーコレ!そんなに高くないし。何とかなるんじゃないかなあ。」

 

「高くないしって。何とかなるんじゃないかなあって。もしかして、僕に買えって事ですか?」

 

「えーまさかっ。」

 

にこやかに笑いつつも、瑠璃の眼の奥に不遜な煌めきがあるのを、チカは見つけていた。
怪しまれないように少し屈み、瑠璃の耳元に小声で囁く。

 

「瑠璃さん。その内クリスマスもあるし、誕生日もあるし、僕は薄給なんですが。」

 

その言葉を無視して、瑠璃はニコーっと笑っている。

 

「スイマセン。それ、プレゼントで包んでください。」

 

負けたチカは照れを隠しつつ、店員に、そうお願いをする。
包装して貰っている間、並んで指環を見だすと、チカは何気に瑠璃の腰を抱いてきた。
いやらしい手つきではなく、それが極自然だという風に。
自分でそれにふっと気づき、さっと何事も無かったように手を降ろした。

チカのこういう日本人ぽくない、何気なく女性を守るような仕種、時折ある。

 

ショーケースの中を見ているチカを、瑠璃はチラッと見上げる。
瑠璃だから、ではなく、程々仲の良い女性になら、きっとこうして何気に腰を抱くのだろう。日常的に。
エレベーターやドアの出入りを、いつも自然に女性へ先を譲っている。
チカはきっと、そういう文化で育った人だ。
でも、普通に日本人顔だし。
平均顔だし。

自分の心の中の声に、ショップを出て、瑠璃は、ぷっと笑った。

 

「何ですか?」

 

周りから人が離れているのを確認して、チカは瑠璃を微かに睨んだ。

 

「何でもない!」

 

そして、嬉しそうにニコッと笑う。

 

「チカに買って貰っちゃった!」

 

「買わされたんですけどっ!」

 

それでも、チカは何処か嬉しそうに怒っていた。

 

「お前なあ、俺はお前の収入と比べ物にならないくらい低い給料なの!

 これから、いろいろ金がかかるのに、なあっ。」

 

何故、金がかかるのかは口にしなかったが、ネックレスの入った可愛いブランド袋をチカは振った。

 

「イイコにしてないと、これは渡さないからな。」

 

「瑠璃、こんなにイイコじゃない。何言ってんの?」

 

チロリとチカに流し眼を送る。
チカは、ふいっと眼線を逸らした。

 

「欲しかったの、新しいネックレス。……捨てちゃったから。」

 

俯いて、低く寂しそうな声を出した瑠璃の頭を、チカは軽く撫でた。

 

「俺が買ったのが欲しかったんだろ?なら、良かったな。ご褒美貰えて……安物だけど。」

 

「金額なんて、いいの。瑠璃が欲しい物を、チカに買って欲しかったの。ありがとう。」

 

二花が十二歳の誕生日プレゼントでくれたプラチナのネックレスを、海に投げ捨てた。
ひとりで海に来るのは怖かったから、送ってもらった時に、チカについてきてもらった。

 

あの夏の出来事から、二ヶ月弱。
今はようやく普通に接せられるが、あの事件から一ヶ月は、チカとまともに会話も出来なかった。
業務連絡だけで済まし、迂闊に口を開けば、互いに激しい罵り合いになった。
心がズタズタになった。

 

それでも撮影の時は、瑠璃はチカを想いながら撮られた。
それをずっと、撮影中見つめていたチカは、撮影の後の帰り道、

有料道路を降り、人影のない川沿いに車を止めては後部座席に移ってきて、瑠璃を強く抱きしめた。
そんなしあわせな気持ちのまま翌日を迎えれば、また、ふとした事で罵倒になる。

 

あたしたち、何してるんだろう?
空しくて静かに泣いていると、チカは怒鳴ってから車を止めて、また抱きしめてくる。

 

地獄は続いている。
生きている事が地獄だった。
チカの言葉も自分の行動も、もう、信じられない。
でも、何でか、こんなにこの人が愛おしい。
だから、生きてこれた。

 

今はようやく、ふっと軽くなってきたと感じられる。
まだ悪夢は見るけれど。
チカの笑顔が見られるから、まだ大丈夫。

 

撮影が再開され、クリスマス仕様の飾りつけをされたアウトレットパークのあらゆる場所で、

大人の女性の様相の十三歳の天使が微笑む。
これがクリスマスシーズンのポスターや広告媒体、Web上での宣伝となる。
また翌週、ムービーで撮って、それがTVやWeb上でのCMとなる予定だ。

その撮影を、関係者のいちばん後ろから、チカは熱い視線で眺めていた。

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

「チカの部屋に行きたい。」

 

チカにネックレスを着けて貰った瑠璃は、むくれている。
アウトレットパークは関東だけれど、都心から少し離れた場所にあるので、撮影帰りも少し遅くなる。

 

「お嬢を、あんな歓楽街に連れてけません。」

 

チカは溜め息をついた。

 

「いーじゃん。変装する。」

 

「一階と二階が風俗のビルの五階だけど?平気?」

 

瑠璃は想像して、少し赤面する。

 

「随分、ステキなトコに住んでるね。」

 

「だろ?ムラムラしたら、すぐに行けるからな。」

 

ぷいっと瑠璃は窓の方を向いた。

 

「行くんだ。」

 

「今は行かないよ。行く必要もない。お前の顔を想い出せば、すぐ出せるし。」

 

嫌悪感を露わにしている瑠璃をバックミラーで確認して、チカは少し苛ついた。

 

「行った事、あるんだ。」

 

「あるよ。」

 

思わず煙草を咥えていた。
火は点けないけれど。

 

「一概に身体を売って金を稼ぐって言っても、彼女たちは様々な理由があって、

 そういう仕事をしている。そんな世間話も面白いもんだ。

 話をしながらでも、世話してくれるからな、こっちはラクなもんだよ。」

 

瑠璃は無言で、泣きそうな顔を窓ガラスに向けている。

 

「あ"?俺に綺麗な過去を求めんなよ。」

 

バックミラー越しで睨んだ。

 

「お前だって、綺麗なもんじゃねえよな?やられて、よがるだけの女じゃねえか。

もっともっと、てな。 それしか能のない女じゃねえか。」

 

眉根を顰めて、瑠璃は頭を抱えて耳を塞いだ。

 

「あ"ーっ!ちきしょうっ!」

 

苦しそうな瑠璃の姿を確認して、チカはバーンとハンドルを叩いた。

 

「ごめんーごめん。ごめん……ごめんなさい……ごめん。ごめん、お嬢。ごめんなさい。」

 

そして、小声で自分を汚い言葉で罵った。

込み入った海岸線に車を止めて、チカは外に出る。
少し離れた処で煙草の火を点けて、ふかしていた。

瑠璃は、そっと近づく。

 

「……寄らないでね。匂いがつくから。」

 

涙を零していた。
それを見た瑠璃は思わず、チカに抱きつく。

 

「バカ。匂いがつくって。」

 

煙草の火を携帯灰皿に揉み消し、チカは震えている瑠璃を抱きしめた。

 

「ごめん、瑠璃ちゃん。」

 

最近、ふたりでいる時、チカは瑠璃ちゃんと呼ぶようになった。
それも何だか、ちょっと気持ち悪くて、ちょっと気持ち良い。
瑠璃の頭を、ぎゅうっと自分の首に押さえつける。

 

「俺、何でこんなんなんだろうな?すぐにお前を傷つける、泣かせる、苦しませる。そんな事、したくないのに。」

 

言いながら、もっと苦しくなったようだ。
瑠璃の頬と唇と首に、冷たい物が流れてきた。

 

「俺、苦しい。俺は、最低の男だよ。二花にも相当酷いことした。鬼畜だよ。俺は最低だ。」

 

「……どんな事したの?」

 

チカの首に頬を擦り寄せる。

 

「お前に言えるか、そんな酷い事。」

 

「言おうとしたよ?酷い事の一から十まで話してやろうかって、前に。」

 

「バカっ!あれはお前の反応を試すための……何で、そんな事覚えてんの?」

 

お陰で泣き止んだようだ。
愛おしそうに、ネックレスを着けた瑠璃のうなじを見つめている。

 

「だって、登規さん。あの後、すごい身震いする事言ったよ?だから。」

 

その呼びように、チカは照れて、ふふふと笑う。

 

「二花のいちばん大事にしている女を、俺の言いなりにさせてやるって。

めちゃくちゃ感じちゃった!瑠璃、もうすっかり登規さんの言いなりだし!」

 

「俺が言いなり、ですけどっ!」

 

押しつけられた大きな胸の感触に、チカは思わず抱きしめていた手を離した。

 

「えーっ!もう、よくない?もう、我慢しなくても。」

 

瑠璃が大きく叫んだ。

 

「ダメだよ、まだ抜けてない。夢でうなされて夜中に起きる。

 二花に酷い事をしてる自分の悪人面が恐ろしくて、叫んで眼が醒める。」

 

額の汗を拭って、チカは瑠璃と眼を合わせないようにしている。

 

「なら、瑠璃も。二花くんとしてるトコ、チカが見てるの気づいて、

 気が狂いそうになって叫ぶの。何回もこれを繰り返し夢で見て、苦しいよ。」

 

「そんなんホントに見たら、俺が気が狂うな。」

 

チカはチッと舌打ちした。

 

「登規さん、あたしたち、多分、狂ってたね、あのままだったら。」

 

「そうだね。」

 

「二花くんのお陰だ。」

 

「そうだね。」

 

あの夜、深夜遅くに帰宅した。
泣き腫らしたふたりの顔を見て、出迎えた実花は無言で瑠璃を抱きしめた。

 

冷静になって考えれば、二花が狂ったら、心が繋がっているママだって狂うと思う。
あの後はそれに対して疑う事も、というより、それ処ではなかった。
そして実際に、ママは笑わなくなった。
まだ今も、微笑みにぎこちなさがある。

 

何て、辛い事だろう。

それを見ているパパも、とても苦しそうだ。
そして我が家はいつも、ママの笑顔にどれだけ救われていたかを知ったのだ。

なのに、パパもママも二花の事には触れない。
だから、きっと。

 

二花に以前、狂った世界の話を聞いた事がある。
それは実際にあった事で、二花はそれを受け入れねばならなかった。
だから、きっと。
狂う事の怖さを、誰よりも知っているのだ。

 

「登規さんー」

 

「何?それ?そうやって呼ぶ事にしたの?」

 

チカは照れながら、喜んでいる。

 

「あたし、よく考えたら、チカって呼ばれの、すごくイヤだったんじゃないかと気づいたの。

 二花くんが呼んでる呼び方っていうのは。」

 

「今更?今更かよ。」

 

チカは楽しそうに声を揚げて笑った。

 

「二花が呼ぶチカね。あれは、スパニッシュやアメリカンが、"可愛い女の子"って意味で呼ぶ"Chicca"とか。

 ロシアンが、子どもの名前の下にチカってつけると、"可愛い子"っていう愛称になるとか。

 そういうの含めて、二花の呼ぶチカは、“可愛いヤツ”って意味合いもあったと思うけど。」

 

あたし、何も考えずに勢いでつい呼んじゃったけど。
何か、好きなの、チカって響きが。

チカはあたしの顔を見て、微笑んだ。

 

「My mum calld me "chicca". She was difficult to pronounce "Touchika".」

 

チカは前髪を掻き上げる。
少し涼しくなった潮の匂いのする夜風に、心地好い冬の懐かしさを感じる。

 

「彼女が“登規”って呼ぶと、どうしても、“トーチカ”になるんだ。

 俺の父親は母親に、違う!“トーチカ”じゃない、“トウチカ”だ!って怒ってたみたいで、

 腹が立った母は、俺をチカって呼ぶようにしたそうだよ。バカバカしい話。」

 

クスクス笑いながら、でも、とても愛おしそうに、その想い出を語る。

 

「だから、チカって呼ばれるのは慣れてる。むしろ、嬉しい……お前にそう呼ばれて、嬉しい。

 いきなり、瑠璃ちゃんがチカって呼び出して、俺はすっげえ嬉しかったの。」

 

凄く照れている。
でも、本当に嬉しそうな笑顔、弾んだ声。

 

「良かった!じゃあ、チカって安心して呼ぶ。」

 

「登規さん、もね。お願い。萌える、それ。」

 

「うふっ。登規さん。チカ、愛してるわ。」

 

「……Maybe then, reincarnation? ……」

 

「えっ?」

 

小声の早口の喋りが、瑠璃には聴き取れなかった。

今の瑠璃に判るのは、チカは母語が英語で、母親は亡くなっていて、そしてチカはマザコンだという事。

謎の人……でも、これからゆっくり、あなたという人が判ればいい。

 

「こっちに座って。」

 

後部座席の助手席側にと指図された瑠璃は、不思議そうにして、そこに座る。
そしてチカは、横の運転席側に座ってくる。
瑠璃にぴたりと寄る。

左肩を抱き、瑠璃の左側の長い髪を右指でうなじから掻き上げ、瑠璃の後頭部をチカの右胸に乗せる。
ふーっと、瑠璃の左首と耳元に息を吹きかける。

 

「あっーあーっ。」

 

瑠璃の小刻みな動きに、チカは更に熱い息を掛けた。

 

「あっ………。」

 

瑠璃の、はあはあという息遣いと、びくんびくんとした身体の動きに、チカの息遣いも荒くなる。
チカの鼓動が、どんどん早くなる。

 

「これだけでイケちゃうのか。便利な身体だな。」

 

震えが落ち着いてきてから、瑠璃は指でチカの顎を押さえ、自分の顔に向かせる。

 

「女が子宮で物を考えるというのが、よおく判る。」

 

瑠璃の潤んだ流し眼、そそる吐息、艷やかな唇。

 

「どうして?」

 

チカの熱い視線。熱い息遣い、熱い指先。

 

「トウチカ!あなたの遺伝子が欲しくて溜まらない!」

 

その瑠璃の言葉に、チカは震える。

 

「注ぎ込んでやるよ、たっぷり、お前の中に、そのうち。」

 

そのチカの言葉に、瑠璃は身体の奥から震える。

 

「早くっ!」

 

「焦るな。」

 

「早く欲しいっ。」

 

涙を流して、チカの首にしがみつく。

 

「お前はもう、俺無しでは生きていけないな?」

 

チカの低い声。

 

「ええ。チカ無しでは、生きていけない!だからっ!」

 

気持ちよく、あなたに狂う。

 

「じゃあ、俺の子どもを産め。」

 

「ええっ!チカの子どもが欲しい!早くっ!」

 

とても欲しい。

あなたの子どもを産みたい。

 

「その前に、たっぷり、愛させろよ?お前を感じたい。

 お前の中で、お前を感じたい。お前の中でイカせたい。」

 

耳元での熱い囁き。
あたし、溶けてしまう。

 

「早く……感じたい、チカを。あたしの中で。」

 

「待ってろ。」

 

あたしは、あなたの言いなり。
心地好い、言いなり。
だから、待つわ。
あなたがあたしの中に入るのを。
あなたのタイミングで、して。

 

もう、どちらの震えか判らない。
呼吸も乱れ捲り、動悸が激しい。
身体中が熱い。

 

「I love you.…… I love you.…… I love you.… myone.

 You make me so hot! I met you, I fell for you, now I love you, and I can’t stop!」

 

チカの囁きに、考える事が何も出来なくなって、すっかり身体をチカに預けた。
こんなに言いなりにさせられて、あたしはしあわせ、だから。

 

帰り道、ずっと瑠璃は熱い吐息だった。
それを聴きながら、チカも肩が上下するくらい呼吸が荒くなりながら、運転をしていた。
チカのそのキツい眼が時折映るバックミラーを確認しながら、瑠璃は更に息を激しくしていった。

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

彼女を初めて見たのは、その娘が小学五年生の時だった。
両親のどちらにも似ているその美少女は、神が設けた神秘だった。

 

椎也の遺伝子サイコー!
南藤実花の遺伝子サイコー!

 

実花さんを家に送っていき、その娘が現れ微笑んで会釈してくれると、天にも昇る気分だった。

ある時から、彼女は俺に微笑まなくなった。
代わりに、とてつもなく鋭い睨みをくれるよ
うになった。


何て眼をしているんだろう。
こんな眼が出せるこの娘を、ここで平凡に終わらせたくない。
その想いが強まっていく。

 

いつだったか実花さんは、瑠璃が二花を好きだったのと話してくれた。
それでか。
合点がいった。
二花が愛した俺を、彼女は許さないのか。

 

なら、彼女を無茶苦茶にしてやろうと思ったんだ。
彼女が二花を想うなら、俺は実花さんの娘である彼女を、思う存分、滅茶苦茶にしてやろうと思った。
想像の中で、だけど。

 

彼女は成長期で、どんどん身長も伸び、胸も飛び出てきた。
そして、愛らしい彼女は二花の女になった。
新しい玩具を手に入れた二花は、彼女に夢中だった。

だから、余計に、この憎たらしい娘を無茶苦茶にしてやりたくなった。

 

この娘の眼に震えながら、これを世間に見せまくりたいと、願った。
ティーンズ雑誌のモデルで終わるだなんて、勿体無いと思った。
この娘を放っておけない、とも思った。
俺が何とかしなくては、と神に祈るような気分になった。

 

苛立ちの中、俺を睨みつけて、平手打ちをしてくる彼女を見据えた。
その手首を掴んだその時に、奇妙な感覚が生まれた。

 

「それが恋の始まり、だったんだろうな。きっと。」

 

ふぅっと、チカは熱い息を吐いた。

 

「気持ち良く語ってるから、止めたら悪いと思って止めなかったけど。

 最初の段階で、えっ?とツッコミたかった。そこまで遡るとは思わなかったよ。」

 

後部座席の瑠璃は、苦笑していた。

 

「どうせお前は、俺との出逢いを憶えてないだろうけどー。」

 

バックミラーに映ったチカは、せせら笑った眼をしていた。

 

「何となく……かな。」

 

「平凡な顔の俺に特徴は無いからな。」

 

でも、笑った顔が可愛いの。
そして、色気が凄いの。
瑠璃は勝手に赤くなっていた。

 

「でもね。二花くんがそんなに夢中になる男って、

 どんな男なんだろうって興味津々だったんだな、きっと。今にして思えばね。」

 

だから、よく見ていたのだと思う。
イヤだと思いながら、憎みながら、チカを見てしまっていた。

 

ファッション雑誌の春モードの撮影をしてきた十二月の頭。
通り過ぎる街中は青い光のクリスマスイルミネーションが煌めいていた。

前にネックレスを買ってくれる時に、クリスマスと誕生日があるって、チカは言った。
きっと、しっかりイベント毎のプレゼントを考えてくれているんだな、と考えると胸とお腹が熱くなる。

 

「俺の母親は、十二歳で俺を産んだんだ。」

 

窓の外の冬模様を眺めていたら、とんでもない発言を急に耳にしてしまった。

 

「えっ?じゅうにーっ!えっ?」

 

思わず、運転席の座席にしがみつく。

 

「だから、ロリコンは遺伝なんだ、なんて単純な話じゃないからなあ。よく続きを聞いとけよ。」

 

「何かもう、衝撃的過ぎて何も言えないけど。」

 

それだけでもう、お腹いっぱいな感じ。
車はそのまま有料道路に入っていった。

 

「彼女は、この男の子どもが欲しいと思ったから、父を押し倒した、と言ってたよ。

 十一の少女がだぜ?そんだけ自由奔放で破天荒な人だった、という情報。」

 

くらくらしてきた。
ああ、でも、その衝動は、よく判る。
判るけれど、瑠璃はそこまでは出来ない。

 

「父は家庭が既にある人だったし。でも、彼女は全く意に介さなかった。

 恋に落ちるって、年齢も国籍も倫理も文化も環境も全て越えてしまうものなんだって、

 幼い俺はそれを聞いて恐ろしくなったよ。」

 

いちばん憎い筈のチカに恋にした。
進んでいく気持ちを止められようが無かった。
許されない恋だとしても。
この男に触れられたいと切に願った。
美しいものであり、恐ろしいものでもある、恋。

 

「まさか、男に恋するとは思わないし。

 そいつの女を、ましてやマネージメントしてるJCに入れ上げるとは想像も出来ないし。

 恋は恐ろしいもんだよ……でも、俺の人生、最高だな。

 ドラマチックに楽しく生きられるよ。後悔は、ちっともしない。

 俺はようやく、母の言った事が理解出来た。

 My life, it was fun best!

 彼女はそう言って、死んだよ。ホント、自由な人だった。 」

 

「チカ、ホントしてない?後悔。」

 

女子中学生と、しかもマネージメントしてる娘と恋をしてるという、危うい縁にいること。

 

「ぜーんぜん。お前を離したら後悔するけど。」

 

「うん……。」

 

自信満々なチカの答えに、瑠璃は涙ぐんで頷いた。

 

「でな、」

 

「何処までヒートアップするの?チカの生い立ち話は。」

 

「黙って聞けーっ。続きはまた、で、今日は終わらせねえから。」

 

出来れば、続きはまた、にして欲しい。

 

「彼女は二十一で死んだから、俺には母という人は、少女、という面影しかない。

 姉弟みたいだったな、俺たちの見た目は。いろんなトコ、行ったよ、ふたりで。」

 

嬉しそうに語る。
どうして、今日は今まで躊躇してた話を、どんどんするのだろう。

 

「ロンドンと香港とを行ったり来たりしつ、世界を廻った。学校なんて行かなくていい、

 というのが彼女の主張だった。ロンドンでは家庭教師がいたけど。

 人種差別が当たり前の国で、黒髪で東欧系の顔立ちの彼女は、そんな大人を傅かせていた。」

 

もう話のスケールについてけない。
要するに、お坊っちゃん育ちなんだ。
上流階級出身なんだ。

 

「返還前の香港はもっと雑多としていて、彼女はそれを好んだ。

 アレが人間の本来の姿だ、と笑っていた。

 だから、俺は雑多な場所が好きだ。

 でも、ロンドンの整った街並みも美しくて、俺は大好きだ。」

 

「それで、どうして、チカは日本に?」

 

瑠璃の問いに、チカは優しく微笑んだ。

 

「 She went to heaven when I was 9.

 So, I came to Japan is a country of my dad at that time. 」

 

だから余計に、マザコンなんだと思う。

 

「全然判んないと思うだろうけど、俺、半分、日本人じゃないよ。」

 

「話の流れからすると、そうだろうけどね。」

 

「そんな日本人顔なのにって思ったろ?」

 

「思ってません。」

 

でも、クスクス笑ってしまう。

 

「もーいいよ。それで苦労したけど。」

 

チカは後ろから差し出してきた瑠璃の右手を取り、左手で握る。
そして、指を絡める。

 

「その半分もイングリッシュとスパニッシュとだけど。

 祖母も自由過ぎて、スパニッシュと一晩の恋に落ちたって、母を産んだんだよね。

 祖母以外に誰も見た事もないそのスパニッシュは多分、

 東欧か中央アジアか東洋かの血が入ってんだろうって予想出来る。母の顔からすると。」

 

「何なの?チカの母方の血筋は。」

 

呆れて言い放つ。

 

「うん。だから、お前から女の子生まれたら大変だよ?

 どんだけ強調された情熱系になるか。」

 

想像して顔が赤らむ。

 

「でさ。父には家庭があったからさ。

 父の姉夫婦が長い事子どもを授からなくて、そんで俺はその養子になったワケ。」

 

強い強い指の力。

 

「日本に来た時、俺は日本語を片言しか話せなくて、でもこの外見だから苦労したよ。」

 

「よくまあ、そんなに達者に話せるようになったねえ。」

 

「アニメは凄いぞ。日本のアニメ、サイコー!俺はアニメと漫画で日本語を取得した!」

 

勝ち誇ったような顔で、バックミラー越しに瑠璃を見やる。

 

「だから、“お嬢”なんて、フツーじゃない、漫画チックな呼び方を思いつくのか。」

 

「Of course! 」

 

何で、こっちが照れるのか。

 

「言葉も通じない、文化も違うトコに来て、大変だったけど、楽しかったよ、それからの人生も。

 初めて通った学校も楽しかったし、義理の両親も本当の子どもとして育ててくれたし。また、いつか逢ってくれよ。」

 

可愛い笑顔。

 

「うん。紹介してね。……ホントのダットにもね。」

 

「いや。アイツにはお前を逢わさない。」

 

きっぱり、言い張った。

 

「仲悪いの?ダットと。」

 

「そーでもないよ。」

 

なら、何よ。

 

「その前に、お前のパパとママに、ちゃんと挨拶しないとなあ。」

 

両肩を上げる。

 

「どう説明したらいいか、悩んでるの?」

 

「それだよ。交際の報告するのは嫌じゃないけど。さて、何処から話す?

 きちんと初めから説明する?ふたりして二花を裏切った処から?」

 

裏切った。
その言葉が重く伸し掛かる。
瑠璃の歪んだ顔を見て、チカは息を強く吐いた。

 

「また、な。この話は。で、長々と生い立ちを改めて瑠璃ちゃんに話したのは、

 お前から金髪碧眼の子どもが産まれても、びっくりしないでねっと伝えたくて。

 祖母は金髪碧眼だからさ。そんな子が産まれても、俺はお前が浮気したんじゃないって知ってるから。」

 

「あっ……そう。」

 

とても具体的で赤くなる。
チカはとても現実的に、あたしたちの子どもの事を語る。
すごく現実的に、結婚を考えてる。
涙が出そう。
この男が、大好き!

 

「子どもと言えば、そうそう。俺、年明けに引っ越しするんだ。」

 

「そうなの?」

 

どうして引っ越しが子どもからの連想なのかは判らないけど。

 

「ずっと探してたんだよ。セキュリティがしっかりしてるトコが、まず第一条件で。

 でも、間取りは俺の給料から払ってける許容内で。

 そしたら都心は難しくて。いや待て、実家に近い方が安心じゃね?って考えて。」

 

「実家?チカの?」

 

何だか訳の判らない連想ゲームを聞いてるみたい。

 

「お前のだよ。何かと実家に近い方が安心でしょ?」

 

「えっ……?」

 

それって。
もしかして。

 

「あ、あたしと暮らす為の部屋を、探してたの?」

 

「そうだよ。」

 

当たり前じゃん。
何言ってるの?
というような顔をされた。

 

「えっ?結婚出来るまで、まだ二年あるのに?」

 

でも、すごく嬉しい。
顔がどんどん赤くなっていく。

 

「お前は甘い!何かと金がかかるんだよー結婚は。

 ちょこちょこ用意してかないとムリなの、俺の給料じゃあ。

 まずは住環境を整える。……二部屋しかなくて、ごめんだけど。」

 

チカもつられて赤くなっていく。

 

「お前が気軽に遊びに来れるようなトコに越したくて。そしたら、結婚して住む場所でいいじゃんって、気づいて。」

 

「なら、瑠璃に言ってくれたら良かったのにーっ。瑠璃の意見も聞かないで、決めちゃったの?」

 

新婚生活に適した場所じゃないと……なんて。

 

「きっと、お前も気にいるし。」

 

恥ずかしそうに笑っているチカ。

 

「俺もまとまった休みが年末年始だけだし。ホントは年末が良かったんだけどなー年末はムリって。

 で、年明け二日に。でもさー、森下家は年明けはいつも、実花さんの実家に行くんだよなー。

 手伝って欲しかったのになー。あーあ。」

 

それって。

 

「でも、売れっ子モデルに手伝ってなんて、アレかなあ?」

 

嫌味。

 

「あー来年はちょっと、遅れてこうかなあ、あたしだけ。おじいちゃんち。」

 

惚けて言う。

 

「マジで?どうやって行くの?」

 

ニヤニヤしてる。

 

「新幹線と電車でえ?しかない。」

 

「人が集まるよ。森下瑠璃だって。そのおっぱいと身長じゃあ、変装しても、すぐバレちゃうしな。

 どうやって、ひとりで対処するの?外国人に変装しないと、ムリだよ、お前。」

 

「何とか善処します。」

 

「ふーん。」

 

その嘲笑。
ああ、もうっ。

 

「瑠璃が手伝うから、登規さん、送ってって、ください。」

 

「いいよ。」

 

勝利のポーズ。
何で、あたしがお願いしてんの?

 

「たのしみだねーっ。」

 

満面の笑み。
仕方無い。
こんなドSなチカが好きだから。

 

「じゃあ、親に何て説明するの?」

 

「友だちと遊びたい、とかかなあ。」

 

「ちゃんと言える?で、どうして俺に送って貰う事になるの?」

 

うっ。

 

「やっぱりさ、嘘はいけないよね。話そうか、ちゃんと。で、許可貰おうよ、きちんと。」

 

真面目な、真っ直ぐな視線。

 

「どうやって、話すの?」

 

「作戦考えます。なるべく早くね。」

 

「はい……。」

 

安心して返事をする。

 

「瑠璃ちゃん、勝ち気なのに、こういう時、やけに素直になるよね。」

 

すぐに、ニヤニヤ顔になる。

 

「あたしは、だって。」

 

「俺の言いなり?」

 

「はい……。」

 

絡んだ指の力が強まる。
こういう、遣り取りが嬉しいの。

 

「確認だよ?まだ、プロポーズじゃないよ?俺と結婚したい?」

 

意地悪。

 

「瑠璃は結婚したいの、登規さんと。」

 

「よし、イイコだ。」

 

有料道路を降りる。
その時に手を離した。

 

「俺もなあ、家事全部してやるって言いたいとこだけど、一緒に動いてるとなあ。

 全部はムリなんだよな。そこら辺、どうするか悩んでんだよ。」

 

深刻な顔をしている。

 

「チカ、何かと妄想が勝手にどんどん進むよね。」

 

「だって、大切な事だろ?大恋愛で結婚して、実際に生活したら、やっぱりダメでしたーってパターンは嫌だからな。」

 

それは勿論だけど。
チカみたいに、先を考え過ぎてたら疲れちゃう。

 

「ねえ、チカ。」

 

「ん?」

 

外は冬の景色。
チカとこうして過ごし出して、季節が随分変わった。
苦しい事を越えて、あたしたち、しあわせでいいんだよね?

 

「キス、して。」

 

チカの肩が動く。
後ろから見てたって、ちゃんと判る。

 

「ダーメ。」

 

「キスくらい、いいじゃない。」

 

「くらい、じゃないよ。それをしたら、始まっちゃうんだよ。何より大事なものだよ。」

 

「あたしは、いいのに。始まって。」

 

「……。」

 

そこで、無言?

車が家の前に着く。
あとどれくらい、あたしたち我慢したら、一緒の家に帰れるのかな?

 

「キスしてくんなきゃ、降りない。」

 

「またまた、駄々っ子が始まった。」

 

笑ってるけど、本当は笑ってない。

 

「しょーがないなあ。」

 

車を降りて、後部座席に廻る。
コンコンと後部座席の運転席側の窓を叩いてきたチカは、眼を閉じて、ウィンドウに唇をつける。
瑠璃はそれを見て、その唇が当たっている場所に、そっと唇を重ねる。
ウィンドウ越しに。

 

唇が離れて、チカはニヤニヤしていた。
チカは後部座席のドアを開ける。

 

「全然、気持ち良くないんですけどっ。」

 

唇を手の甲で押さえて、瑠璃は怒って出てくる。

 

「だろーっ?コレはドラマで観ればロマンチックだけど、

 実際にやる方は、なーんも感じないんだよっ。ざんねーんっ!hahaha!」

 

「もーっ!チカぁっ!」

 

チカの手を掴んで、チカの胸元を叩く。
そして、そっとチカの肩に額を乗せる。
あっ。

 

瞬間で、そのまま硬直した瑠璃を不思議に思い、チカは瑠璃の眼線の方向を軽く振り返った。

 

「あっ。」

 

家屋の角に、知愛を抱いて立ち尽くしている
椎也と実花の姿がそこにあった。

 

やってしまった……。
チカはその格好のまま、苦笑するしかなかった。

 

 

 

トーチカ~瑠璃シーン③後編に続く

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あー。
ドキドキした。
わたしがどれだけ、驚いたか。
あのシーン、判りますか?
あれはあの人たちのプレイです。
実際に子どもが産めるかどうかの話ではないので。

 

それでも、それなりに楽しい場面をようやく書けて、よかった。

果たして、このままラブラブなまま、二年後を迎えるのか?

 

チカの生い立ちも
もーお腹いっぱいです。

ハロルド山田のように
(ハロルド山田が判る人はマニアック。)
胡散臭い真実を知ると、
人はそれと今までを夢のように思います。

 

寝てないのに、あれを書いたあとは、一寝入りして、

夢を見たような気持ちになりました。
あれ、夢だったよねって、なかったことにするの。

 

その胡散臭い現実から、過去を振り返ると、
チカは実花を小バカにして、ひとり楽しんでたと。
ドS加減が、そこも見えてくるのですよ。

 

この回から、ゆっくりペースで書くつもりが、例のおかげで早送りに。

まあ、火星双子座の、時期だから。

 

チカは自分でちゃんと台詞を決めるので、

I love you.以外の

愛の囁きを言わそうと思っても、

どうしても、オーソドックスなI love you.が好きです。

 

my sweet も my one も,いきなり言い出しました。

だから、あとから調べたのー。

実際に、こう呼びかけるのか。

オーソドックスではないけど、パートナーにこの呼びかけもあるようです。

 

照れますよね、こんな事、実際に言われたら。

どう、呼ばれたいですか?

 

神楽シーン③の裏側

こちらではどんな騒動になったのか

これを、次回お送りします。

 

お読みくださり、真にありがとうございます。